書評: 空飛ぶ広報室


いつ読んだ本だか忘れてしまったが、自衛官がアメリカに行き、制服で街を歩いてもジロジロ見られないことに驚き、何だか誇らしい気がするというくだりがあった。レストランで「軍人さんには特別な席があるんだ」と特別な席に通される二人。日本ではこんなことは望むべくもなく、私も含めて大方の日本人は街の中を迷彩服の自衛官が歩いていたら何事かと思ってギョッとするだろう。

私たちが思い描く軍人は礼装で陸(おか)に上がる米国の海軍兵であり、映画の中の迷彩服をきた戦場の彼らである。間違っても街の中を迷彩服が歩いていてはいけないのだ。

この話はテレビ局の報道記者だった女性がひょんなことから航空自衛隊の元パイロットの新任広報官に出会い、自衛隊のことを知って行くという物語だ。

トップガンは F-14 トムキャットのドッグファイトの映画。天才パイロットを演じるのはトム・クルーズ。写真は音速の壁を破る瞬間の珍しい写真。

自衛隊では軍ではない。だから、日本には空軍はないが自衛隊の空軍の人という言い方をされてしまう。報道などで「集団的自衛権」とか「専守防衛」という言葉が踊っていても、一般の人の理解度とはこんな物かという主人公に妙な共感を覚えてしまう。国を守っているのに日陰の存在、それが自衛隊だ。

「今だに航空自衛隊の話をするのにトップガンみたいな古い映画を引用しないといけない。」と広報官ががっかりする下りがある。公開されたのが 1986 年だから 20 年以上前の映画だ。曲芸飛行をするブルーインパルスとトップガンに出てくる F-14 と現行の F-15 が見分けがつかない、私だってその程度の知識だ。

物語に登場する広報室の面々はいろんな個性を持つ人がいるが、私のお気に入りは広報室長の鷺坂(さぎさか)さんだ。「詐欺師」の異名をとるミーハーのおっさんはやるとなったら航空自衛隊幕僚から現場までばりばり動かして不可能なイベントでも可能にしてしまう。読み進めながら誰かに似ているなと思っていたけれども、ゆうきまさみさんの作品の「カミソリ後藤」こと「後藤隊長」に似ているのだ。航空自衛隊のスローガンは「勇猛果敢・支離滅裂」だそうだ。このスローガンを体現しているようなそれでいて緩い感じの人である。

本を読み終わる頃には「勇猛果敢・支離滅裂」な愛すべき航空自衛隊のことを少しだけ詳しくなっていると思う。

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カテゴリー: 書評

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